群馬・中之条「クラフトチョコレート」

カカオ豆と砂糖を厳選、
“日本で最も美しい村”群馬・中之条で手作り
彫刻家が
芸術祭でつながった
仲間と作る
「クラフトチョコレート」
この10年ほどで急速に広まったチョコレート作りの新しいスタイル、「クラフトチョコレート」。
原料となるカカオ豆を生で仕入れるところから始めて、焙煎→殻剥き→すりつぶし→温度調整→成形までのすべての工程を、一人の作り手または一つのブランドが一貫して行うというものです。ビール界におけるクラフトビールのような存在で、「Bean
to Bar(ビーントゥバー)」チョコレートと呼ばれることもあります。
基本の材料はカカオ豆と砂糖だけ。見た目はどれもシンプルな板チョコですが、一口かじってみると食べ慣れた普通の板チョコとは全く別物です。材料が限られているからこそ、カカオ豆の産地による味や風味の違いが製品にはっきりと表れます。
「フルーティーな」「ナッツのような」などと表現される味わいにはコーヒーやワインにも通じる奥深さがあり、普通のチョコレートはそれほど好きではなかったという男性にもファンが増えています。

米国に遅れること10年、日本では2010年代半ばの東京にクラフトチョコレートの生産者が現れ、現在は日本各地に数十から百近くの生産者がいるとも言われます。
人口約1万5000人、日本で最も美しい村連合に加盟する群馬県北西部の中之条町でも、2020年に4人の若者が集まってクラフトチョコレートを作り始めました。今では他業種からコラボ商品開発の声がかかるほど、クラフトチョコレート界隈では知られる存在になっています。
出身地もバラバラで、チョコレート作りに関しては未経験だった4人が協働することになったきっかけは、2年に1度開催される『中之条ビエンナーレ』という国際現代芸術祭でした。

「僕たちにも作れるかも」
nakanojo kraft project の西岳拡貴(にしたけひろき)さんは彫刻家です。2017年に中之条ビエンナーレに初参加し、制作のために2週間ほど滞在したことがきっかけで町に移住し、地域おこし協力隊としてビエンナーレの事務局の仕事を担うことになりました。任期は3年。終了後には仕事をどうしようかと考えていたときに、チョコレートマニアの知人から広島・尾道のチョコレートを食べるように勧められました。「自分が知っていたチョコレートとは全然違う、ジャリッとした口当たりの男くさいおいしさに驚いて」。それがクラフトチョコレートとの出合いでした。
調べてみると、製造方法はシンプルで簡単そうに思えるし、材料はカカオ豆と砂糖だけ。 「僕らにも作れるかもと思って、ビエンナーレを通じて知り合った同世代の篠原(大地さん)にも声をかけて自分たちで作ってみることにしたんです」(西岳さん)。メンバーは、服飾関係の仕事を経験後に地元に戻ってきた篠原さんと妻の千明さん夫妻と、西岳さんに尾道のチョコレートを教えてくれたチョコマニアの山川恵里菜さん。全員がアートやアパレルを生業としてきたメンバーで、パティシエやプロの料理人経験者はゼロという異色のチーム。2019年末のことでした。

受講は2日間、あとは独学で完成させた
カカオ豆を生で買い、フライパンで煎って殻を剥いて中身を取り出したら、すり鉢で1時間ほど油分が出てくるまですりつぶしてみる――。ネットで得られる情報を参考にチョコレートらしきものを作ってみましたが、とても納得のいく出来ではありません。西岳さんはすぐに東京・蔵前でクラフトチョコレートメーカーが開催する2日間のワークショップに申し込み、基本的な知識を得ました。西岳さんたちがすごいのは、あとはすべて独学で挑んだところ。もともと手先が器用でなんでも作れてしまうアーティストらしく、チョコレートの製造に必要な道具や簡単な機械さえも自分たちで改造して用意するなどして、チョコレート作りにのめりこんでいきました。
ようやく「6割くらい完成した」試作品を中之条町の人たちに食べてもらったのは2020年4月頃。ところが「おいしいのかどうか分からない」「値段が高すぎるのでは」と散々な反応で、「これが逆に奮起するきっかけになりました(笑)」(篠原さん)。チョコレート作りで重要なテンパリング(温度調整)などの技術も身につけて、販売できる製品(1枚40g、800円)が完成したのは2020年10月のこと。チョコレート作りを思い立ってから10カ月で一つのゴールにたどり着きました。

あえて厚みを不均一に。味わいが変化
製品化したチョコレートの形は、波打った水面もしくは丘陵地を思わせるようななだらかな凹凸があり、厚みをあえて不均一にした板チョコです。
「試作品では独自性のある三角形にしてみたり、そもそも僕が彫刻家なので枝とか石とかの造形を希望したり、といろいろなアイデアがありました。でも、チョコマニアの山川が『チョコレート好きにとってチョコは作品ではなくて食べ物なので、持ち歩きやすいタブレット(板チョコ)の40〜50gがいい』と意見してくれて。僕ら4人のメンバーそれぞれに異なった得意不得意があることで、誰かが突っ走りしすぎない抑えになっていると感じます」(西岳さん)

食べるためにチョコレートを手で割ると、一片が厚くなったり薄くなったりします。「厚みの違いが味の違いにつながります。そんなところも楽しんでもらえたらと」(西岳さん)
1年目にリリースしたのは王道の、味が対照的な2製品です。
「一つはホンジュラス産のカカオを80%使い、砂糖は黒糖。もったりして、ビター寄りで、ナッツを感じさせる抑揚のある香りがします。対照的に、もう一つはベリーズ産のカカオを74%使い、砂糖はきび糖。酸味があってフルーティーで、すっきりした味。この味がクセになるという人が多いです」(篠原さん)。

2年目には製造ラインを安定させていくことを課題とし、3年目以降は地元産の素材を取り入れたコラボレーションにも力を入れています。「2024年になって、ようやくちゃんとチョコレートを作れるようになったと感じてきました」(西岳さん)
毎月1枚発売、12枚並べて完成するチョコ
そんな2024年に西岳さんたちは毎月1枚ずつ、「睦月」「如月」「弥生」……と発売月の和風月名を付けたチョコレートをリリースしました。カカオ豆と砂糖だけで作ったチョコレートはそのうち3枚だけ。残り9枚は、何か素材をプラスしてアレンジしたチョコレートです。「地元産の米味噌やハーブ、食べられるバラや花いんげん(豆)などの素材をチョコレートに取り入れてみたいという思いを形にしました。地域おこしという役割をこれで少し果たせたかなと」(西岳さん)。
もう一つ実現できたことがあります。「クラフトチョコレートを作り始めたときから彫刻家としての僕がやってみたかった『枝』の形のチョコレートをようやく実現できました」。この枝形のチョコレートと12枚のチョコレートすべてを詰め合わせたスペシャルボックスを、数量限定で発売したのです。

「本物の桑の枝から型を作ったんです。この辺りはかつて養蚕で栄えた町で今も桑の木が残っています。そんな歴史を感じてもらえたらと」。自分たちがやっていて楽しいことをする。これを守り続けた結果、単なる食品としてのチョコレートではなく作品としてのチョコレートにもなっているのがnakanojo kraft project の大きな魅力です。

「睦月から師走まで、順番にパッケージを並べてみてください」と西岳さん。そこに浮かぶ模様は……。アーティストが潜ませた仕掛けは、私たちの平凡な日常の中にワクワクする気持ちをもたらしてくれます。

月替わりの12枚の板チョコと、スペシャルな枝チョコレートのプロフィルは以下です。その日の気分で食べたいものを一つ選んでもいいですし、「睦月と如月」「神無月と霜月」のように、似たレシピのもの二つを食べ比べて違いを感じてみるのも楽しいです。落ち葉柄のオリジナルボックスに入れてお届けするので、贈り物にもぴったり。ウイスキーやワインなどとの相性も良いです。

取材・文/大屋奈緒子
写真提供/nakanojo kraft project
5/5〜10出荷 『12カ月のクラフトチョコレート+枝チョコ 詰め合わせ』 群馬県中之条町 ギフトBOX ※冷蔵
16,000円(税込)
- 販売中 在庫数 13
- nakanojo kraft project